東北大学災害科学国際研究所災害医学研究部門 災害公衆衛生学分野

研究室紹介・方向性

ご挨拶

 ようこそ当教室のホームページへ。
 私たちの教室は、大規模災害にどう立ち向かうか、ライフコースにわたる健康向上策は何か、多因子疾患の病態をいかに解明するか、に取り組んでいます。このホームページにアクセスされた方にはさまざまな立場の方がいらっしゃると思います。

 大学院での勉学をご希望の方へ。当教室では3つのミッションを達成すべく、世界初の研究デザインである三世代コホート調査を計画し、実施し、そのデータの解析によって新たな知見を得て社会に還元し続けています。世界初ですからやることはすべて世界で初めてで、その困難さを体感することができると同時に、その潜在的なパワーを実感して多くの知見を創出するチャンスを得ることができます。

 研究者の方へ。三世代コホートはバイオバンクです。ぜひその試料・情報を利活用いただければと思います。出生三世代コホートデザインですから、そのデータ構造も複雑ですので利活用にはそれなりに越えなければならないハードルがありますが、共同研究という形態であればデータ構造のご説明などご一緒することができます。まずはご連絡をいただければ幸いです。

 国民の皆さまへ。医学研究に対するご期待は十分に承知しております。教室員一同このご期待に応えるべく日夜病気との対峙に挑戦しています。コホート調査は息がながく、それなりの予算がかかるものではありますが、そこから得られる果実は想像をはるかに超えるものです。このことはこれまでのコホート調査の実績が証明しているところですが、コホート調査がゲノムコホート調査となって個々人の体質に可能な限り沿った医療を展開するための知見を得る際もまったく同様に当てはまります。常にタイムリーに成果を出し社会還元してまいります。引き続きご支援のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。
災害公衆衛生学分野・分子疫学分野 教授
栗山 進一

ミッション

【私たちの教室のミッションは、3つに集約されます。】

 第1は、「公衆衛生学的手法を用いて大規模災害にどのように立ち向かうかを明らかにする」ことです。
 大規模災害の前、発災直後、発災後中長期的に何ができるか。発災直後から亜急期にかけては、津波から身を助ける可能性のあるフロートパックの開発や衛生状態の改善、薬の提供計画などシステマティックな対策を立案しています。発災後中長期的にはコホート調査の手法を用いて中長期的な被災の健康影響を明らかにし、課題解決のための実践を行います。では、発災前には何ができるのでしょうか。実はここが公衆衛生学的に大きな役割を果たせる大きな潜在性を秘めたところです。「被災後人はなぜすぐに逃げないのか」は東日本大震災でも大きな課題となりました。人はリスクが差し迫っていると実感できていないとき、行動は起こしません。公衆衛生学では痛くもかゆくもない方々にみえない未来のリスクを実感いただき、禁煙や減塩を進めてきました。この手法を災害公衆衛生学でも応用し、被災のリスクを実感いただけるようにして平時からの備えと発災直後の迅速かつ適切な行動をとっていただけるようにしたいと考えています。

 第2は、「ライフコース疫学的手法を用いて人生のあらゆる場面に通用する健康向上策を立案し、人生早期から継続的に実践する」ことです。
 中高年期に出現する多くの病気は、直近の生活習慣のみならず、遺伝的な要因と胎児・乳幼児期の環境要因が大きく関与することが明らかとなってきています。いわゆるDevelopmental Origin of Health and Disease(DOHaD)仮説をはじめとするライフコース疫学の考え方です。永年にわたって蓄積されてきた生活習慣などの環境要因の影響を、中高年になってから何とかしようとするのではなく、胎児期から以降すべての人生の各場面で有効な健康向上策を明らかにし、これを実践していきます。研究基盤としては、世界初の研究デザインである「出生三世代コホート調査」を構築しています。子どもをはじめとした家族みんなの健康に与える影響を、このコホートから得られる知見によって解明したいと考えています。

 第3は、「分子疫学的手法を用いて自閉スペクトラム症をはじめとする多因子疾患の病態を解明する」ことです。
 分子疫学は疫学を基礎としそこにゲノム医学や人工知能解析技術などが融合した新たな学際的領域です。疫学手法を用いながら、ゲノム情報やオミックス情報を人工知能解析技術などを駆使して、遺伝・環境相互作用の解明を目指します。この分子疫学的手法を用いて、自閉スペクトラム症をはじめとする多因子疾患の病態を解明し、失われた遺伝率の回復とともに、これまで永年にわたっててこずってきた多因子疾患の克服を目指します。疾患によってはひとつの疾患概念でくくっていたものが実は多くのサブグループからなり、それぞれ原因や治療効果が異なっている可能性があります。多因子疾患は実は多病気疾患であるのかもしれないと考えています。

研究内容の紹介

【災害公衆衛生学】

大規模災害が健康に与える中長期的影響を、大規模疫学調査の手法を用いて研究しています。震災は子どもたちをはじめとした人々の心身の健康に大きな影響を与えているのではないかと懸念されています。“教訓”は残さなければなりませんが、病気の増加などの“禍根”は残さないようにしたいと思っています。病気の増加という禍根を残さないよう、大規模災害後の中長期的健康状態のモニタリングと、その結果に応じた介入研究を行っています。

  1. 東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究:
    被災地の子どもの発育状況を把握し、震災による子どもの発育への影響を明らかにしています。保育所データ、乳幼児健診データを用いて、経年的に子どもたちの成長を評価しています。
  2. 仮設住宅におけるかび・ダニの発生状況とアレルギー症状との関連研究:
    石巻市を対象として、仮設住宅等のかび・ダニ発生状況と、特に小児におけるアレルギー症状との関連を研究しています。
  3. 想定される大規模災害の健康被害最小化研究:
    東日本大震災で得られた教訓を活かし、次に想定される大規模災害における健康被害を最小化する研究を行っています。

【分子疫学・ライフコース疫学】

世界初の研究デザインである「出生三世代コホート調査」を行っています。被災が子どもの健康に与える影響を解明するとともに、子どもをむしばむ病気の原因解明を新たな治療法開発を目指しています。
医学は一律のものから、個々人の体質等を考慮し、より個人に最適化されたものとなってきています。これは精密医療(precision medicine)あるいは個別化予防・医療(personalized healthcare and medicine)と呼ばれ、現代医学の大きな柱を形成しています。分子疫学では大規模災害の健康影響の解明と合わせ、精密医療を実現すべく大規模分子疫学調査を実施しています。

  1. 精密医療実現のためのゲノムコホート在り方研究:
    患者コホート、住民コホート、出生コホートと発展してきたコホート研究の最先端として、出生三世代コホートを開発しています。これは遺伝要因、胎内からの環境要因と疾病との関連を捉え、疾病のリスク予測と先制医療を行なおうとするものです。この成果から、当該疾病に対する新たな治療法の開発も視野に入れています。
  2. 神経疾患、特に自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)の成因解明研究:
    自閉スペクトラム症の成因解明と新たな治療法の開発を行っています。特に、一部の自閉スペクトラム症をもったお子さんでは、ビタミンB6に反応する子どもがいることを突き止め、このビタミンB6反応性も、疾病原因の解明に活かしています。
  3. 生活習慣病、特に肥満とがんの分子疫学的研究:
    ライフコースを縦断した調査及びゲノムコホート研究によって、特に肥満とがんの原因解明と治療法開発を行っています。

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